|
佐藤「私はアルミのスリーブを作ってSRに入れたりしていますが、このスリーブにするだけで振動はずいぶん変わりますね。エンジンの特性とかはどうやって決めたんですか?」
奥井「エンジン特性はバルブタイミング、吸排気系が大きく影響します。カムのプロフィールに関しては、ロッカーアームを使うタイプなので、ロッカーアームの剛性も考えて、カムプロフィールを決めました。目標のエンジン性能確保のために、カムの作用角はけっこう広めです。バルブ径が大きい、というのも影響があるのですが」
大城「今考えると、広いよね」
奥井「バルブ系の過酷なテストもしました。特にオフロード走行で倒れた時、スロットルを開けたままになったりすると、エンジン回転が上がって、オーバーレプしてしまいますよね。そこで、無負荷状態スロットルを全開にしてエンジンをいじめ、そんな状態でもエンジンが壊れないようにするんです。その状況で何分間もつか、とかですね。それを改良するためにバルブタイミングとかをいじって、ピストンと当たってバルブが壊れて止まらないように設定するんです」
佐藤「CDIは78年から採用されますよね」
大城「あれは、78年からアメリカで排ガス規制が厳しくなるということで、いろいろテストしてみて、それで採用しました。コスト上360°点火を採用したので、排気上死点でも火が飛ぶんです。最初はバックファイヤーを心配しましたが、問題ありませんでしたね」
佐藤「何かの本で見たのですが、5バルブの開発テストをSRベースでやったというのは、本当ですか?」
大城「SRのエンジンって使いやすいんですよ。YICSやリーンバーンの開発は、みなSRのエンジンを使ったと記憶しています。いじりやすいんですよね。単気筒というのは、研究に使いやすいんです」
佐藤「クラッチは信頼性が高いですよね」
大城「とにかく1mmでもエンジン幅を狭くしたいという考えがあったので、フリクションプレートを3mmから2.8mmにして、これはTT500で開発しましたね。単気筒というのは1回転ごとにエンジンの爆発力がトルクとしてかかりますから、クラッチに対する負担はとても大きいんです。それに耐えられるもの、ということで開発しなければならなかったので、要求性能としてはかなり厳しかったですね。1回転ごとのトルク変動時に耐えきれず、開発の段階ではクラッチが焦げたりしました」
佐藤「うちのショップにエンジンのオーバーホールでSRがよく入りますが、この前も6万km走行した400のクラッチは、何でもありませんでした。すごい耐久性ですよね。それと、マフラーについてお聞きしたいのですが、スタンダードマフラー、良くできていますよね」
奥井「性能を出そうと開発していったら、ずいぶん長いものになったんです。ところが、デザインで切られてしまった。単に途中で切っちゃうと、ボリュームが足りないから目標の性能が当然出ないわけです。それで『目標に達していない』と怒られた記憶があります(笑)」
佐藤「チャンバー室が車体の下に付けられていますよね」
大城「マフラー容量を稼ぐのが最大のねらいです」
奥井「バイクを寝かしたときに路面と当たらないとか、車体と干渉しないように作るのはほんとに大変でした。リアのアクスルと干渉するから、その部分はえぐらないといけない、とか。デザイン的に、長いのはダメと言われた。じゃ、どうやってマフラーの容量、ボリュームを稼ごうか悩んだ末の選択が、あのチャンバー室でした」
大城「エンジンは排気脈動があるから、パイプの開放端までの距離とねらいの回転数を決めて、合わせていかなければなりません。ですから、マフラーの容量、ボリュームというのは非常に重要なんですね。さらには、音を消さなければならない。音を効率よく消しながらも、性能は落とさないようにしなければなりません。デュフューザーにしても、大気開放型の方がパワーは出るのですが、音的には厳しくなりますからね」
奥井「開発がXTからSRに移植したとき、マフラーが長い距離走ると、色が変わる、という問題があったりして。開発の半分くらいは、マフラーの問題をやっていた気がします。マウントもゴムマウントにしてみたり」
佐藤「そうした苦労の結果、ユーザーに評価されて25年間生産され続けるという、ロングセラーモデルになったわけですね」
大城「逆に言うと、基本設計が25年以上前のモデルですから、ある意味、製造屋泣かせになっています。現在の工作機械を使って製作するのは考えていませんから。未だにある部分に関しては、職人さんの腕に頼ってる部分があるみたいですね。そういう意味では、他の機種以上に手のかかるモデルです。ユーザーの支持がなくなれば、その先は難しいのが現状だと思います」
佐藤「そうですね。ぜひ30周年を迎えさせてあげたいですね。本日はありがとうございました」 |
コメント