ビッグシングル FI時代到来



(SR400/500 Vol.38 P28-31)

AAA
ビッグシングル FI時代到来

シングルエンジンの可能性に興味と熱意を持ち続け、
とくにSRではエンジンから車体に至るまで独自の研究を続けるスリーエー。
その最新作は、現行SRでビッグシングルらしさを味わう提案である。


敷居の低さはそのままにスポーツ性をアップ。

 トラディショナルな外観で、ツーリング向けに仕上げたような穏やかな雰囲気を持つこのSR.製作したのは埼玉県のスリーエーで、ベースは現行モデルのインジェクション仕様である。BSAタイプのオリジナルタンクに、フラットな座面で適度な厚みを持つシートの影響もあり、誰でも扱えそうなフレンドリーさを漂わせ、事実誰が乗っても楽しめるまとまりを持つ。だが、その中身は経験から得たこだわりのノウハウが満載だ。

FI仕様のSRはエンジンの反応がいい意味で優しく、扱いやすい。これは免許を取った直後にSRを選ぶユーザーもいることを加味して考え、SRらしさを削らないレベルでFIの特性を生かした結果なのだが、スリーエーのSRはその優しさを少し引き締め、その分スポーツ性を加えている。エンジンは、ビッグシングルらしい蹴り足の強いトルク感を持ち、燃焼室で起されている爆発の感触も硬質なものに変わっている。だがハードさが前面に出ることはなく、乗りづらさはない。その乗り味を構成する主役は、ストロークアップされたクランクとサブコンだ。スリーエーのSRはφ90mmのピストンを使うためボア・ストロークアップになるのだが、キャブ仕様では如何にもチューニングをしたという荒々しさが前面に出やすい組み合わせと思いきや、FI仕様ではエッジを削ぎ落としたような、それでいて爆発のパンチ力=硬さは変わらない。そんな不思議な乗り味にまとまっていた。

「これがFIの特性なんでしょうね。緻密に燃焼を制御することで、まろやかさが出てきたのだと思います。でもスムーズさの貢献には、ピストンとクランクの重量バランスや、ボア・ストローク比、パーツの組み込み方など、細部にもあります。敢えてウエブの想い400用クランクを使い、ワイセコのφ90mmと組み合わせているのも、そのうちのひとつです」

これは車輌返却の際に伺った、スリーエー代表の佐藤氏の言葉だ。曰く「FI仕様はまだ第一段階だから・・・」と、先々チューニングの計画が控えていることも、その言葉の端に含ませていたように思う。

一方車体側だが、足周りパーツの変更により車体姿勢に僅かな緊張感を加えている。ノーマル同等のフォーク位置に対し、リアショックを少々長めにし、スタンダードから少し尻上がりにしているからだが、程ほどに抑えているためトラディショナルな外観とのバランスも崩れていない。この程良いさじ加減により、多くの人が享受できるスポーツ性を生み出している。

膨大なデータを生かし、エンジン特性に変化をつける。

 しっかりとした抵抗を感じつつ、デコンプレバーを使いながらキックアームを踏み下ろすと、わずか2発であっけなくエンジンはかかった。チューンドエンジンにしてはかなり始動性が高い。歯切れのいい排気音と左右のレバーに伝わる振動が、容量を上げたエンジンの底力を無言の裡に伝えてくる。クラッチをつないだ直後の出足は、かなり気持ちのいいものだ。ノーマルSRでは最初に優しく、後からしなやかに伸びを増していくが、スリーエーSRはかなりダイレクト。まるで、筋力アップした太い足で力強く蹴飛ばしているかのように、推進力が増している。歯切れのいい排気音と明確さを増した鼓動感は、2500~4000rpm辺りで流していても気持ちがいい。そこから少々重めのスロットルを大きく開けていけば、右手の動きに対し厚いトルクが大きく開けていけば、右手の動きに対し厚いトルクがリニアについてきて、ビッグシングルらしい大股な加速感で一気に速度を乗せていく。

560ccという排気量を考えると、キャブ仕様の90x84mm=534cc、いわゆる500用クランクを使った定番チューンで得られる、パワー/トルクのバランスに優れた回して楽しむ特性を想像するかもしれないが、スリーエーのSRが見せたエンジンフィーリングは、やや質が異なる。ボアこそ定番の90mmを使うが、低~中速トルクにウェイトを置いた特性で、これはノーマルの67.2mmから88mmまで伸ばした、ロングストローククランクの影響が大きい。ただしハイカムを組み込むため、中~高回転でもパワーの落ち込み具合は少なく、ロングストロークエンジンにしては上まで回るし、伸びもある。そして、おそらくこれはFiならではの特性、それを生かすべく調整したサブコンの効果なのだろうが、ビッグボア/ロングストローク/ハイカムと主張の強い分特性変化の激しいパーツ類を、とてもバランスよく丁寧につなげている印象があった。そのため、「低回転で主張を強く感じるが上でもしっかりパワーを乗せる、でもクランクを力強く、一気に勢いづいて回す特性とはやや異なり、スムーズな伸びを見せる」という、なんとも絶妙な味付けになっていた。

そんなエンジンに感心しながら場所をワインディングに移すと、車体の動きに危うい気配がないため、最初からいい勢いで走ることができた。とくにリヤショックの動きに節度があり、立ち上がりの踏ん張りもいい。対してフロントフォークは柔らかく、よく動く。少々リヤとのバランスが崩れているように感じたが、踏ん張るリヤを軸にフォークのストロークを生かし、スロットルで車体姿勢をコントロールすれば走りやすい。適度なスポーツ性と街中の快適性の両立を狙ったセッティングなのだろうが、旧車のような乗り味でもある。もしかして、BSAタイプのタンクに合わせセットアップも近づけて・・・と考えるのは、いき過ぎだろうか?

スリーエーでは、今後もFIチューニングに力を注いでいくという。ノーマルスロットルボディでこれだけ元気に走れるということは、流用等で大口径のボディに交換できれば・・・先々が楽しみな1台である。

エンジンは500用クランクよりウェブが重い400クランクをベースに、オフセット位置を88mmに変更。これにワイセコφ90mmを組み合わせ排気量を560ccとする。FI関係はサブコン装備のみ。日常使用域が楽しいトルク型エンジンだ。

インジェクションチューニングに欠かせないサブコンは、ダイノジェット社のパワーコマンダーVを使用。チューニングに合わせたセットアップを済ませた状態で出荷。

エキゾーストシステムはAAAオリジナルのUSフルパワーで、材質はチタン。マフラーエンドにはディフューサーディスクを装備しサウンドも乾いた心地いい音色だ。

この車輌の特徴のひとつに、シルバーカーボン製の外装がある。写真のミニカウル、下のヘッドライトステーともにAAAオリジナルだ。残念ながら手間の多さから、シルバーでは市販の予定はなし。通常のカーボン仕様で対応する。

FRPで作り込まれたBSAタイプのフューエルタンク。ゴールドスターのクラブマンタンクをモチーフにした。SRカスタムの定番スタイリングのひとつ。FI専用品で、ノーマルフューエルラインに対応。

オリジナルのFRP及びカーボンパーツを多数プロデュースするAAA.左上からフロントフェンダー/エンジンガード/サイドカバー、チェーンケース/TRタイプリヤカウル&ショートリヤフェンダー。いずれもブラックカーボンorFRP

が選べる。シルバーカーボンは試作品。


適度な肉厚があるAAAのツーリズムシート。エンジンの振動を吸収してくれ、操作性も向上する。

オイルフィラーキャップはアントライオン製のビレットタイプ。チタンゴールドが渋さを演出する。

クランクケースを護るエンジンスライダー。これも仕上がりの良さで定評あるアントライオン製だ。

リヤショックは各方面から評判の高いナイトロン製。リザーバータンクなしのシンプルさがいい。スイングアームはOVER製のアルミタイプ。

トップリッジ&アンダーブラケットはアントライオンの削り出し。メーターはACE
WELL製で、スピード/タコメーターが一体のデジタル表示式だ。ハンドルはAAA製のスーパーショートコンチ。アルミ製である。

フォークはノーマルをベースにインナーチューブをチタンコート。粘度と油面を変更している。ヘッドライトはマルチリフレクタータイプに。

ブレーキはマスターをヤマハ純正のラジアルポンプに、キャリパーはSR純正のまま、ローターをサンスターのφ300mmに変更する。バランス良好。

丁寧な作りこみで人気のバックステップはクラフトマン製。キックの邪魔にならないよう、右側のステップバーは折り畳み式になっている。

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